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ドローン業界ニュース
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2025-02-28
カイコが人命救助で活躍? 触角をセンサーに使ったドローンでにおいを追跡 災害現場での捜索に役立つ技術を研究
信州大繊維学部(長野県上田市)の照月大悟准教授(36)=バイオハイブリッド工学=と千葉大大学院工学研究院(千葉県)の中田敏是(としゆき)准教授(41)=生物流体=らの研究グループが、生きたカイコガから切り取った触角をセンサーに使ったドローンを5メートル先のにおいの発生源に到達させる実験に成功した。成果を応用して災害現場での要救助者の捜索などに役立つ技術の実現を目指している。 昆虫の触角はにおいを受容すると電気信号を発し、切断後も一定時間、機能を持続するという。照月准教授は東京大先端科学技術研究センターに在籍していた2021年、雄のカイコガの触角を使ったドローンを開発。触角の両端を電極に貼り付け、雌のフェロモンのにおいに反応するセンサーとした。このドローンで、においの発生源に到達することに成功したが、探索可能な範囲が2メートル程度に限られている点が課題だった。 生物の飛行メカニズムに詳しい中田准教授との共同研究を始め、昆虫の行動をヒントに改良を加えた。センサー部分をカバーで覆い、空気が流れ込む方向を絞り込むことでにおいの発生源の方向を感知する能力が向上。カイコガが羽ばたきにより触角に向けて気流を誘導する動きから着想を得た。 昆虫がにおいの発生源をたどる際、停止しながら探索する動作も取り入れた。その場で120度ずつ回転しながらにおいの情報を取得し、1回転。取得した情報を基ににおいの発生源の方向を推定し、70センチ直進して再び1回転する―といった動作を繰り返す。 こうした改良を経て、探索精度は約2倍に向上。探索可能な範囲は5メートルに広がった。電極部分にも手を加え、センサーの寿命は1~2時間から5時間程度まで延びた。 チームは現在、蚊の触角を使って人間のにおいを追跡できるドローンの開発に取り組んでおり、災害現場での活用が期待できるとする。ガス漏れや危険物質の検知などにも応用できる可能性があり、照月准教授は「新しい技術で現場をサポートできたらいい」と話している。昆虫の触角は匂い物質を高感度に検出するメカニズムを備えており、特にカイコガのオスは、メスの放出するフェロモンの匂いを高感度に検出する能力が卓越しているとのこと。その嗅覚機能に着目し、近年カイコガを利用した高感度匂いセンサーの研究、開発が進められています。このカイコガの触角を利用したドローンは、視界不良の災害現場でも匂いを利用して要救助者を発見することができる新しい災害救助システムとなるのではないでしょうか。また本研究成果は、ネイチャー・パートナー・ジャーナル(npj)のロボット系雑誌であるnpj Roboticsに、令和7年2月5日に公開されました。 -
2025-01-31
ANAとエアロセンス 航空機の機体整備点検作業にドローンでの検証開始を発表
全日本空輸(ANA)とソニーとZMPの合弁会社であるエアロセンスは、ドローンを活用した機体整備点検作業の実現に向けた検証を開始すると発表。今現在、もし航空機が運航中に被雷した際は、整備士が機体に傷やへこみなどの不具合が生じていないかを目視で確認する点検作業をおこなっている。今回の取り組みによって、この機体点検作業にドローン運行技術と画像解析技術を活用し、整備品質のさらなる向上と点検時間短縮による運航便の遅延・欠航を最小限に留めることを目指す。またこれは、2月14日14:00~16:00に、大阪国際空港(伊丹空港)に隣接する「MRO Japan」敷地内にて、実際にドローンを運行させ航空機を撮影する検証を実施する予定だ。あらかじめ自律的に航空機を周回する飛行ルートをプログラムされたドローンを運行し、航空機の外観全体をドローンに搭載した高解像度カメラで撮影し、ドローン運行の安全性の検証や画像解析データの収集、実用化に向けた課題の抽出といった検証を行う。さらに今後は、山形県庄内空港にて、空港ランプエリア内の航空機に対する検証などのより本格的な検証を実施していく予定とのことだ。<コメント>主要航空会社と整備会社を合わせた整備士の年齢構成は50歳以上が約4割を占め、整備士資格を持つ約8500人のうち約2000人が今後10年ほどで退職する見込み。また全国9つの航空専門学校では、2017年に600人だった入学者はコロナ禍を通じて減少し、23年と24年は各280人と半減、将来的に整備士不足による減便・欠航が生じる恐れもあるとのこと。そのような状況の中、ドローンで撮影した画像を整備士が遠隔で確認することができれば、大幅な時間短縮が見込まれ今後の人材不足を補う手助けとなるのではないでしょうか。 -
2024-12-31
NTT ComがSkydio Dockを使った配水ポンプ場の遠隔点検を実施、’28年度以降の導入目指す –Dockの実装で水道局の課題解決を提案–
横浜市水道局とNTTコミュニケーションズ、酉島製作所、コネクシオは、2024年夏から実施している、ドローン等を活用した配水ポンプ場の遠隔巡視の取り組みを、同年11月19日に、横浜市保土ヶ谷区の仏向ポンプ場にて報道関係者に公開した。水道局職員による現地点検の負担を遠隔ドローンで軽減 神奈川県横浜市は横浜港を中心とした港湾都市として知られている。しかし、横浜駅周辺を除いてそのほとんどが起伏の多い丘陵地帯となっており、上水道は多くの地域でポンプによって配水が行われている。このポンプが故障すると大規模な断水につながることもあり、ポンプ設備の機能を維持するために、市内に23か所あるポンプ場で水道局職員による巡視・点検が行われている。 作業はポンプの外観を目視して水漏れなどを確認するほか、ポンプに取り付けられた計器の指示値を確認、さらに聴診棒を使ってポンプの振動を確認。異常な振動を確認した場合は、ポンプの軸受け部などにグリスアップ(給油)を行う。こうした巡視・点検はポンプ場1か所につき、1か月に1回、職員4人程度が1日かけて作業している。 点検を行う職員は、拠点となる浄水場から移動するため、ポンプ場によっては往復最大2時間がかかる。また、点検作業は職員が視覚や聴覚、触覚といった五感を使って確認し、異常の有無を判断するという暗黙知に依存しており、今後、多くのベテラン職員の退職が控えている中では、技術の継承が大きな課題となっているという。 そこで水道局ではICTを活用した効率的かつ持続的な維持管理方法を確立するとして、今年度からドローンとセンサーを活用した配水ポンプ場の遠隔巡視をテーマに、仏向ポンプ場で実証実験を行っている。ドローンが撮影した映像をもとにポンプの漏水や漏油の有無を確認するのと、ポンプに取り付けたIoTセンサーを使ってポンプの振動や温度を確認するというもの。いずれもドローンやIoTセンサーが得たデータは、インターネット経由で浄水場の執務室で確認できる。 ドローンによる遠隔巡視は、NTTコミュニケーションズが提供するSkydio 2+とSkydio Dockを使用。ポンプ場内に設置されたSkydio Dockから離陸したSkydio 2+が、ポンプ周囲をあらかじめ決められたルートに沿って飛行し、ポンプ本体や配管、計器を撮影し、そのデータをリアルタイムでクラウド上にアップロードするというもの。安定した自動飛行で複数の点検箇所を確実に記録 この日、報道関係者に公開された実証実験では、仏向ポンプ場に5台あるポンプのうち、2号機と呼ばれるポンプに対して、ドローンの飛行による巡視点検のデモンストレーションが行われた。ポンプ場の一角に設置されたSkydio Dockから離陸したSkydio 2+は、ポンプのモーターの軸受け部や圧力、流量などの計器、バルブといった、あらかじめ決められた点検箇所のそばに来ると、その都度ホバリングして写真を撮影。この日は10か所余りのポイントを撮影し、数分でSkydio Dockに戻った。 Skydioはポンプ場の建屋内に設置したメッシュWi-FiであるPicoCELAのルーターからStarlink Businessを介してインターネットに接続されており、同機が撮影した映像はクラウドにアップロードされる。この日は水道局の執務室を模した形で、報道関係者の前に置かれたPCの画面上にリアルタイムで表示された。 こうした横浜市水道局の取り組みは、センサーによる遠隔巡視が7月頃から、ドローンによる遠隔巡視が8月頃から始められていて、ドローンについては12月、センサーについては2025年3月に実証実験の結果を取りまとめる予定となっている。現段階では1か月に1回のペースで、その都度Skydio Dockを設置してドローンを巡回飛行させ、障害物回避やバッテリー残量が低下した時の挙動の確認、そして撮影した画像から異常を判断できるか、といったことを評価する段階であり、その結果はまだ出ていないという。また、今後はポンプやパイプの下にもコースを設定するといったことも検討している。 一方、センサーによる遠隔巡視は、10,000Hz付近の周波数の振動値が高くなるとメールの通知が行われ、その通知に従って職員がポンプ場に赴き、ポンプのグリスアップをしたところ、振動が改善したことから有効性があるとしており、今後はセンサーによる解析を職員の五感による確認とすり合わせていくとしている。 こうしたドローンやセンサーを使った遠隔巡視の導入により、移動時間を含めた現地での作業時間を短縮できるとしている。また、横浜市水道局では西谷浄水場の再生事業に取り組んでおり、こうしたポンプ場の巡視・点検を遠隔点検に置き換えて省力化を図ることができれば、二十数名の設備職を再生事業に従事させることができるという。 横浜市水道局では2024年度の取り組みで有効性が確認できた場合、2025~2027年度にかけて、1年に1か所のペースでポンプ場にドローンとセンサーを導入していく。この3年間の運用状況を踏まえて、2028年度以降、すべての配水ポンプ場に順次導入を進めるとしている。<コメント>2021年の水道事業に携わる職員数は4万7174人で、ピーク時(1980年)の7万3556人と比べると36%程度減少しています。また自治体の財政難や作業員の高齢化などで、各地で事業を継続することが難しくなっています。そのような問題を解決するために、一部地域では遠隔で検針データが取得可能な「スマート水道メーター」を活用するなどデジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでいます。今後更なるDXの進化やAIやの活用が進めば、ドローンが活躍する機会も益々増えるのではないでしょうか。 -
2024-03-31
2023年度ドローンビジネス市場規模、前年比23.9%増の3854億円
2024年3月14日、インプレス総合研究所は、国内のドローンビジネス市場の動向を調査し、ドローンビジネスに関する調査結果を発表した。また、この調査結果をまとめた新産業調査レポート『ドローンビジネス調査報告書2024』を、2024年3月22日(金)に発売する。 2023年度における日本国内のドローンビジネスの市場規模は、3854億円と推測され、2022年度の3111億円から743億円増加している(前年度比23.9%増)。2024年度には前年度比21.5%増の4684億円に拡大し、2028年度には9054億円に達すると見込まれる。これは、年間平均成長率(2023年度~2028年度)に換算すると、年18.6%増加することになる。
ドローンビジネスの市場を構成する「機体」「サービス」「周辺サービス」のうち、2023年度に市場規模が最も大きかったのはサービス市場で、前年度比27.6%増の2025億円。次いで機体市場が前年度比21.2%増の1051億円、周辺サービス市場が前年度比18.5%増の778億円。各市場とも今後も拡大が見込まれている。2028年度には、サービス市場が5154億円(2023年度~2028年度の年間平均成長率20.6%増)と最も成長し、機体市場が2281億円(同年間平均成長率16.8%増)、周辺サービス市場が1619億円(同年間平均成長率15.8%増)に達する見込みだ。
機体市場:重量物運搬ドローンの利用が広がる 機体市場は、近年20~50kg程度の重量物を運ぶ機体が登場し、限られたエリア内でモノを移動させる運搬でのドローン利用が広がっている。土木・建築現場の資機材や農産物、農業資材のように、人が運ぶには重いものをドローンで運ぶことができるため、従来の建設機械や農業機械のように、現場における生産性向上の手段としてドローンの利用が広がることが予想される。2024年度は、レベル4飛行(有人地帯における目視外飛行)に必要な第一種型式認証に加え、利用者にとって操縦者技能証明との組み合わせで許可・承認を省略できる第二種型式認証のドローンが増加するとみられる。サービス市場:点検、土木・建築、農業での実装が進む サービス市場では、特に点検、土木・建築、農業などの分野におけるドローンの社会実装が着実に進んでいる。2023年度の点検分野では、橋梁、一般住宅、大規模建造物などの点検用途での商用化・実用化がより一層進んでいる。またオフィスビルや商業施設の天井裏や下水道の管渠、ボイラーやダクトの内部など狭小空間でのドローン活用の認知が広まり、普及し始めている。水上や水中といったフィールドで活躍するドローンの利用も活発化しており、海洋構造物やダム、上下水道、農業水利施設の管路といった設備を対象にした点検を中心に利用が広がっていくとみられる。農業分野:ドローンによる農薬散布が定着 農業分野では、ドローンによる農薬散布が定着しつつあるが、画像解析やリモートセンシングといった精密農業の領域では普及が進まず、分野全体では市場拡大が鈍化している。物流分野:本格的な市場の立ち上がりは2025年度以降 物流分野では昨年度に続き、全国で実証実験をはじめとしたドローン物流の取り組みが数多く行われている。しかし商用化している企業は一部にとどまり、まだ市場はほとんど立ち上がっていない。無人地帯での補助者なし目視外飛行(レベル3)に関するルール改正(レベル3.5飛行制度の新設)が行われたことが後押しとなり、2025年度以降に市場が本格的に立ち上がっていくとみられる。その他のサービス:ドローンショーなどエンタテイメント用途での活用 その他サービス分野の中では、エンタテイメント用途での活用が昨年度に引き続いて伸びている。数百から数千のドローンを群制御して、機体のライトで夜空に文字や図形、アニメーションを描くドローンショーは全国各地で行われており、今後は広告媒体の1つとしても注目を集めていくとみられる。周辺サービス:国家ライセンス制度が始まりスクール事業が活発化 周辺サービス市場では、無人航空機操縦者技能証明制度の開始に伴い、スクール事業が活発化。また、ドローンの産業利用が進むにつれて、バッテリー等の消耗品や定期的なメンテナンス、業務環境に即した保険のバリエーションの増加などにより、周辺サービス市場は機体市場の拡大に合わせて引き続き成長していくと予想される。<コメント>一部成長の鈍化はあるものの、レベル3.5飛行制度の新設により物流や広域に及ぶ点検作業など、急速な拡大が見込まれています。またビジネスだけでなく、能登半島地震の被災地でもドローンで支援に当たるなど災害の現場でも活用されました。ドローンの活躍の場が更に広まりつつあり、2024年度は更なる飛躍をどげるのではないでしょうか。 -
2023-08-31
ドローンショー・ジャパンが5GHz帯の実験局を開局、1,000台規模のショーを提供開始
2023年8月10日、ドローンショー・ジャパンは、ドローン安全推進協議会と、ドローンに関連する技術およびサービスにおける安全運用に関するガイドライン策定に向けて、協定を締結したことを発表した。これに併せて無線LAN規格における5GHz帯の屋外実験局免許を取得し、1,000台規模のドローンショーの提供を開始した。 日本の電波法では屋外での利用制限がある5GHz帯の無線LAN通信において、ドローンショー分野で実験局を開局したのは国内初だという(※1)。 同協定により両者は包括的な連携のもと、ドローンを用いた新産業の安全運用を図り、これに伴う新たな技術・サービスを生み出すことによる、これらの産業の定着、集積、発展を目指す。新産業・ドローンエンタメ産業の創出発展、地域活性化に向けた協働研究、技術者等の人材育成に取り組むとしている。※1 屋外における5GHz帯を合法的に利用してのドローンショーとして。(2023年8月10日時点、同社調べ)■5GHz帯実験局の開局背景 電波法では気象レーダー等への電波干渉の恐れがあるため、屋外のドローンショーで5GHz帯を利用することは禁止されている。そのため同社は屋外ドローンショーで利用可能な2.4GHz帯を使っていたが、周波数帯域幅の問題から、安全性を重視して500台以上の飛行を控えていたという。 同社は総務省および気象庁と協議を重ね、総務省から屋外ドローンショーにおける5GHz帯無線LANの実験局免許を取得し、8月に都内で900台のドローンショーを実施した。■各者コメントドローン安全推進協議会 事務局長 川口禎光氏 ドローンを多数使用したドローンショーが、世界中のエンターテイメント分野において、急激に事業拡大しております。日本がこの分野でのトップランナーを目指すべく、ドローン安全運用に向けた基本合意を「ドローンショー・ジャパン社」と当協会との間で締結をいたしました。 ドローン安全運用に関するガイドライン策定は、まさに安心安全基準に則った日本的ドローンエンターテイメント新産業の創出発展に寄与するものと思料します。ドローンショー・ジャパン 代表取締役社長 山本雄貴氏 人々を楽しませ感動させるエンターテイメントだからこそ、何よりも安全面を優先し、然るべき知識とノウハウを蓄積することが重要だと考えます。 この度の、ドローン安全推進協議会さまとの安全運用ガイドライン策定が、エンタメ分野におけるドローン活用のさらなる発展につながることを願っています。 また、ドローンショー分野で5GHz帯の無線LAN通信実験局を国内で初めて開局させて頂いたことは、大変光栄である反面、今後の国内ドローン技術発展の一翼を担うということでもあり、身が引き締まる思いです。コメント世界で初めてのドローンショーは2013年3月、ロンドンのテムズ川上空で映画の宣伝のためにスター・トレックのロゴを描いたもので、時間は僅かでしたが遠くからでも鳥が飛んでいるように見え反響があったとのこと。その後、2016年11月にアメリカ国内で初のドローンショー、ディズニーの「Starbright Holidays」での300機、2018年に韓国の平昌で開催された冬季オリンピックの開会式での1,200機など機体の数は増えていきます。またドローンショーにおけるギネス世界記録としては、2022年6月中国の深センでのドローン5,184機の同時飛行や、2023年7月アメリカでのドローン1,002機が複雑なフォーメーションでアメリカの歴史における重要な瞬間を夜空に描いたものが、最大の空中テキストとして認定されました。日本では法律の規制などもあり、海外のドローンショーとはまだ規模の大きさに違いがありますが、パフォーマンスは年々向上しており、また今回の5GHz帯無線LANの実験局免許取得で電波の問題も緩和され益々発展していくのではないでしょうか。 -
2023-05-31
東北ドローンと東北大学TCPAI、AI・ドローンによる「山岳遭難者探索システム」を開発
2023年5月24日、東北ドローンは、東北⼤学タフ・サイバーフィジカルAI研究センター(以下、東北大学TCPAI)との共同研究により、⾃動⾶⾏ドローンと⼈検出AIによる「⼭岳遭難者探索システム」を研究開発したことを発表した。 ドローンの電源投⼊から空撮、遭難者発⾒、クラウド経由の報告までを完全に⾃動化。夜間・⼀部通信圏外のロボット競技会において、その性能を実証した。
■現状の課題と解決策
⼭岳遭難は近年右肩上がりに増加している。捜索する側は、遭難が発生した場合には山間部を数日にわたり大人数で捜索するため、多大な運用費用に加えて捜索者側の安全リスクも高まるといった課題がある。
東北ドローンと東北大学TCPAIは、2022年度にドローンを使った遭難者探索システムの共同研究に着手。東北大学TCPAIでは、社会や産業の課題解決へ向けたロボットやAIの研究開発を行っており、東北ドローンのドローン運用ノウハウと、東北大学TCPAIの研究実績を合わせることで、実践的なシステムの開発を目指した。
開発したシステムでは事前に設定した範囲をドローンが自動航行し、熱画像カメラの映像から自動で人らしき箇所を捉え、その位置座標を送信する。空から捜索する中で人らしきものを見つけた場合、その位置情報を伝えるという流れを捜索と一貫して行う。
具体的には、ドローンが離陸後に赤外線カメラを使用して赤外線映像を撮影。次に、白黒の赤外線映像から、周囲の環境よりも温度が高い(色が白い)人の特徴をもった形状をAIが認識する。そして動画を画像に切り分け、AIが認識した物体に関する位置情報を計算し、着陸後または上空利用が可能なSIMカードを搭載した端末から拠点に送信する。送信するデータは、全体のうちAIが認識した部分のみになるため、データ確認は容易となる。
東北ドローンが機体や通信、東北大学TCPAIが遭難者検出や位置特定技術の開発を主に担当した。 映像中から人を検知するために、YOLOv7という物体検出AIモデルを採用。YOLOv7に上空から人を撮影した赤外線画像を使った独自のチューニングを施すことで、検出機能を実現し、チューニング後のYOLOv7では、赤外線画像から人らしき物体を検出して矩形(長方形)とテキストで表示する。
■研究開発の方向性
捜索者にとって安全な仕組みができることで、昼夜を問わない持続可能な捜索が可能になると見込み、テクノロジーを使用した捜索者のための課題解決を検討した。
東北ドローンでは、ドローンを活用して空から遭難者を捜索するシステムを開発することで、人が現場に赴き捜索するリスクを減らすとともに、遭難者の早期発見に貢献することができると考え、ドローンの電源投入から飛行、分析者へのデータ送信まで、人の介入が少なくなるようなシステムの開発を検討した。
既存製品の組み合わせでは自動で物体を見つけることは困難であるため、自動で人を検知し、その場所を推定するシステムを目指すとともに、夜間の捜索も可能とするため熱画像カメラを採用した。
■ジャパン・イノベーション・チャレンジ2022における検証
遭難者救助のテクノロジーを競うロボットコンテスト「ジャパン・イノベーション・チャレンジ2022」(以下、JIC2022)において、両者は「東北ドローンと東北大QuixAir」として、コンテストの課題のひとつである「発見」に注力して参加し、システムの検証を行った。
コンテストでは実際の山間部に捜索対象となる人の体温を模した人形(模擬被災者、以下マネキン)が複数体設置され、出場者は夜間にロボットを使ってマネキンを捜索する。 地形による伝送の乱れや低温などの影響から、制限時間内の課題達成はできなかったが、後の検証で、自動航行から帰還したドローンはターゲット(マネキン)らしき物体を検知しており、推定した位置座標も誤差が少ないことがわかった。
JIC2022でマネキンを検知したシステムの性能を定量的に評価することで、システム改善の具体的な方向性がわかることから、2023年1月に福島ロボットテストフィールド(以下、福島RTF)内において、JIC2022と同様のマネキンを配置して再度システムの運用を行い、そこで取得したデータをもとに検証を行った。
これによりAIの評価指標である再現率と適合率を求めることができた。再現率は、検出すべき物体のうち、正しく検出された物体の割合を表しており、偽陰性を考慮して見逃しをなるべく抑えたいときに有用な評価指標となる。適合率は、システムが検出した物体のうち正しく検出された物体の割合を表している。誤検知などをなるべく抑えたいときに有用な評価指標である。
■検証結果
福島RTFで複数回取得したデータを東北大学TCPAIが分析。その結果、全体の再現率は50.9%で、適合率は90.5%であった。これらの評価指標には目安となる絶対的な数値基準はなく、あくまで相対的な評価としてAIの精度を検証するために用いられる。
適合率90.5%という数値は高く、AIは陽性と検知した物体の9割が正しい結果であったことを示している。一方、再現率の50.9%は改善の余地があることを示している。これは陽性全体のうち、AIは約半数の陽性を陰性と判断していると言い換えることができる。
■今後について
JIC2022と福島RTFにおける検証から、AIの推定による再現率の向上と、探索システムの精度向上が課題であることが分かった。再現率は、見逃しをなるべく抑えたいときに使う指標となる。再現率を上げることで、飛行ルート内の遭難者を見逃さないシステムに近づくが、現時点ではAIの追加学習が必要となっている。探索システムの精度については、熱画像カメラに付随するパラメータやドローンのタイムスタンプの取得によって、より正確な位置推定につながるデータの取得が可能となるが、現在使用しているカメラの技術的な分析などが必要となる。両者はこれからも実用へ向けた研究開発を続けるとしている。
コメント警察庁の統計によると、21年の山岳遭難の発生件数は 2,635件と過去2番目の多さであり、近年右肩上がりに増加。
また、 北アルプスや中央アルプスなどを管轄する長野県警の山岳安全対策課と同協会の発表によると、新型コロナの感染が拡大した20年に183件まで減少した山岳遭難件数は、行動制限が大幅に緩和された22年に284件まで増加。265件だったコロナ禍前の19年を超え、22年の死者・行方不明者は計41人。遭難者数は310人で、史上最多だった18年の330人に迫ったとのこと。284件の山岳遭難に対して救助に出動したのは延べ3267人で、コロナ禍前の19年よりも約500人増加し、遭難1件あたり、11.5人が出動したことになります。
捜索は警察や防災ヘリにより行われることが多いが、山麓から捜索隊が登って地上から捜索する活動も不可欠です。この場合、危険な個所や広大な山岳地をできるだけ短時間に隈なく捜索することが求められ、多大な人員や、時間、費用、そして二次遭難のリスクが付きまといます。この⼭岳遭難者探索システムでの捜索が可能となれば、夜間も捜査を行うことができることなどから遭難者の発見が早まり、捜索する側のリスクも減ることが考えられます。AIの推定による再現率、探索システムの精度向上などまだ課題はありますが、一日も早い実現が望まれます。